PDFと手書き:仕事の中に「手書き」を楽しむワークフローを見つけよう。

「絵が描けない」と愚痴っていたら、イラストを専門にしている人から「それは描く必要がないから」と軽く言い放たれたことがあるのですが、たしかに素人のお絵かきの問題はそこにあると思うけど、素人でも素人なりに描ける環境や道具があれば話は違うと思うのです。そんな環境や道具あれば誰にでも絵が描ける!というのとはちょっと違うのですが、求めよさらば与えられんということでしょうか。
そういう環境や道具を探している人は、私も含めて割りと多いような気がします。ただし、効率だけを考えていると既存のワークフローからはみ出すことはできない。そこで、既存の枠組みには収まらない新しい道具を組み合わせて、新しいワークフローとして確立できたら面白いと思います。たぶん、最初は専門家には受け入れられない方法になるでしょうけど。そう、私の場合はiPadならねってことで、笑。

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手書きには練習が必要。そんな練習も下書きを本からiPadに取り込んで始める。下書きは『新15分スケッチ練習帖【基礎ドリル編】』山田雅夫・著(あさ出版)からスキャン。

 

■ 効率重視のパソコンとは相性が悪い手書き

パソコンを使うようになってからは、しばらく手書きとはさよならをしていました。それというのもまず自分の悪筆が嫌でしたし、書き損じたら最初から書き直さないといけないという手書きの効率の悪さも気になりました。

手書きの効率の悪さといえば、文章を書く途中で当然書き間違える可能性があります。書き間違えたら書き直さなければなりませんが、手書きではこれが面倒くさい。きちんと下書きをして、それを書き直すという物を書くワークフローができている人ならいざ知らず、私のように唐突に書き始めるタイプの人間は、書き直しながら書くようなものです。だから、書き間違いを直すのも効率良く行いたい思いますが、手書きは書いたり消したりが大変にはじまり、きれいに消せない→直した後が汚い→読み返すのが大変、と良いところが何もなかったりします。

ただ、試しに書いてみるというのは、頭の中にあるモヤモヤしたものを形にするには大切な作業です。でも手書きで紙に書いておいたら紛失するかもしれません。また紛失しなくても紙に書いた下書きは、文章を書き上げた時にはゴミになります。そこで、下書きから手書きでなくパソコンを使っていたら、紛失したりゴミになる心配はなくなります。
とにかく私の書き方は、書き直しながら書くといってもいいほどなので、まず、パソコン編集のアンドゥ(取り消し)ができるのは有り難いことです。これは一度書いたものをたった1つのショートカットで消してしまい、なかったことにできます。当然、簡単に消せることは危ないことでもあるので、それを元に戻す(リデゥ)こともできます。さらにコピぺ(複製)が容易にできます。書き直している途中で全部捨てて、保存しておいた書類からやり直しこともできます。または、一時的に書いたものを保存しておいて、後から再編集・再利用することもできます。

何といっても、手書きと違ってパソコンで作った書類は、1度作れば何度でも再利用できます。この書類を再利用するときに登場するのが「プリンター」です。プリンターは一時はパソコンとは切っても切れない周辺機器であり、パソコンで作った書類は紙に印刷することで、いわば実体のある書類になります。プリンターはパソコンをコピー機に変え、書類作成のワークフローを確立しました。
パソコンとプリンターが確立した書類作成のワークフローは、そのままキーボードの普及といってもいいので、パソコンで書くようになってからは、もうプライベート以外では、手書きは使わなくなるのではないか、などと私も思うほどでした。それにパソコンで作った書類は、データ(主に再利用できるのはテキストデータ)にもなっているので、パソコンで電子的に編集して、紙に印刷する以外にも利用できます。

 

Palm体験で学んだこと

そんな感じで、私の場合はパソコンを使えば使うほど、手書きの出番は少なくなっていきました。作業の効率だけを考えれば、手書きはキーボードを使うパソコンと比べるまでもありません。ただし、そんなパソコン一辺倒の書類作成に一石を投じたのが、2000年代初頭に起きたPDAブームでした。Palmを使うと、一度手書きを捨てた人間でもパソコンの前に座らなくても、どこでも文章が書ける解放感がありました。また、Palm には Grafftti という手書き認識が用意されていて、これには私もかなり萌えました。手書きのGrafftti は書くことが楽しく、書いた文章はテキストデータになるわけで、これは新しい手書きでした。相変わらず手書きは、キーボードを打つよりは効率が良くはありませんが、Graffttiはゼロから物を書くという感じが楽しかったのでした。

また、英字しか入力できない Grafftti でも、ローマ字入力でけっこう日本語を書くのにも使えるのにも驚き、さらに Grafftti の描き方の癖に慣れるにしたがって、手書き入力を認識率が良くなっていくのにも驚きました。パソコンを使っていると、辞書を鍛えるなどと称して、新しい入力方法の良し悪しやキーボードの使い勝手などにこだわりましたが、実際には文章は文字を書かないことには先には進まない。それには書くべし書くべしというのが、 Grafftti の哲学のような気がしました。
誰が使っても容易に文字が入力できるというのが、これからの人工知能時代の優れたソフトウェアなのかもしれませんが(そして多くの利用者はそれを望んでいますが)、 Grafftti は使いこなすのに小学生が文字を習うように練習が必要でした。ただし、練習することで確実に文字を入力する作業効率が上がるので面白く、書くことが楽しかったのでした。 Grafftti はとくに利用者の癖を学習するわけでもなく、利用者が操作に慣れるのに従って認識率が向上するので、ある意味で完成した入力方法といえました。もしも人工知能時代に Grafftti を発展があるとしたら、作業効率が向上するだけでなく、使う側の人間の経験値に応じてそれを補佐していくソフトウェアなのではないでしょうが、私は変わらない Graffttiのままでも良い気もします。

ただ、Palm の流行が去ると Grafftti が使えるPalmも互換機もなくなってしまい、やはりもう手書きをすることはないかもとも思いました。それでも、Palmに代表される PDA というデバイスが登場しなかったら、今iPadを手書きで使っている自分の創意工夫も違っていたような気がします。そのくらい道具を使うことによって人の意識というのは変わるもの、というのもPalm体験があるからそういえるのだと思います。
パソコンの中の情報を紙に印刷するのにプリンタは利用されますが、必ずしも紙に印刷しなくてもPDAがあれば、外に持ち出せる、外でメモが書けるというのは、実はiPhoneを使うときにも思っていますが、このiPhone=印刷した紙の代わり、というのもこのときのPalm体験のおかげだと思っています。

Grafftti では手書きでアルファベットしか入力できなかったので、そのアルファベットをローマ字入力したわけですが、その時から日本語っていろいろ厄介な言葉だと思いながらも、自分が物を考える時にはやはり日本語しかないのだなと思い、改めてQWERTY配列のキーボードとローマ字入力に向き合うことになりました。そこでローマ字入力のまま親指シフトにいかなかった理由は簡単で、iPhoneiPadでは親指シフトが使えなかったからでした。

Grafftti が表舞台から去ってからしばらくして登場したiPhoneiPadは、最初は外付けキーボードから日本語を入力するのにも変な癖があったりしたのですが、そこがかえって新鮮でした。そんな私でしたが、今ではiPadとApplePencilで手書きを再び始めています。その理由が、最近になって人に物事を説明する仕事が増えたことも理由でした。

 

■ 仕事の中にも「手書き」を楽しめるワークフローがある

以前の私は書いたり編集するのが主な仕事でしたが、人に説明する仕事は、口頭で行われ手書きで説明しなければならなかったりします。そんなところに、ApplePencilが利用できるiPad Proが登場して、私にとっては渡りに船でした。
臨機応変に説明する場にキーボードはあり得ないし、そうかと言ってその場しのぎで出たところ勝負というわけにもいかないので、それなりに事前にプリントアウトなどを用意しなければならない。ただし、いくらプリントを準備をしても相手があることなので、その場で修正がないわけはなく、その修正は次の説明に利用できるので、何としても記録して次回につなげていかなければなりません。

人に説明するにも印刷物を用意してそれを配布して説明する、というのがひと通りの流れなのですが、相手によって説明の仕方も変わるし、場合によっては印刷物をその都度修正していかなければならない。印刷物を作ってそれで終わり、というような話は説明する仕事ではあり得ません。
人によってはパソコンで作る印刷物をプレゼンテーションアプリに置き換えて対応したりしていましたが、印刷物を作るワークフローとプレゼンテーションをするワークフローは異なります。パソコンやタブレットの画面を大型モニタに映し出したにしてもそれは同じだと思います。この2つのワークフローを説明する仕事の中で統合しなければなりません。
私にとって、この人に説明する仕事の中の2つのワークフローを統合するポイントは手書きでした。運良くApplePencilで手書きが実用レベルになったところだったので、これに挑戦することにしました。iPadをいろいろ試して気づいたのは、これはワープロだけでもプレゼンテーションアプリだけでもだめなことでした。それというのも、ワープロもプレゼンテーションアプリもそれぞれのワークフローで使うコンテンツを編集作業をするものでしかく、現場でそれを人に説明するには、これらのコンテンツを統合する「メタ編集」が必要だからです。そのためには、iPadを新しい電子の紙やノートとして利用しなければなりません。

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